TOKYO2020は落日の「ニッポン資本主義株式会社」の裏金トンネルイベント

稲垣 豊(五輪災害おことわり連絡会)

東京オリパラ組織委員会は、2022年6月21日の理事会で大会経費が1兆4,238億円かかったという最終報告を了承し、あとは野となれ山となれ的に6月30日に解散しました。その一週間後の7月8日、詐欺まがいの「アンダーコントロール」プレゼンで五輪を招致した安倍晋三が、詐欺カルト商法の反共団体・統一教会の広告塔になっていたことで銃撃されて死亡、自民党と反共カルト集団との密着ぶりが世間を揺さぶるさなかの8月17日、拝金カルト集団の電通の元常務執行役員で組織委員会理事の高橋治之が逮捕されました。

高橋治之に象徴される電通のスポーツ部門は、1980年代以降の資本主義グローバリゼーションがもたらした世界的バブルのなかで、事業を拡大してきました。電通時代の高橋治之の奔放なカネ使いを支えたのも、バブルの帝王と呼ばれ、そして没落した弟、高橋治則の存在がありました。弟・治則のプライベートジェットでJOCやIOC委員を接待しまくった兄・治之は前JOC会長の竹田恒和とも兄弟ぐるみの懇意で、竹田のJOC会長就任にあたっては、無給だった会長職を年俸1500万円にするなどの支援を惜しみませんでした。そんな高橋にすれば、やる気のなかった都知事に再立候補して五輪招致をすすめた石原慎太郎に息子・伸晃の総理就任を支援することを約束したとされる森喜朗がパターナリズムをふるう招致委員会の委員長となった竹田恒和のために、2.3億円程度でIOC委員を買収することなどは、ごく当然のことだったのかもしれません。

それはひとり高橋の非常識ではなく、かれの出身母体である電通など広告マーケティング業界の常識であり、そしてまた選挙のために反共カルトの統一教会とともに、拝金カルトの電通をフルに活用してきた自民党の常識でもあると言えます。

高橋は2016年暮れの週刊文春のインタビューにこう答えています。「電通が専任代理店で集めてくるんだけど、お目付け役みたいなもん『ちゃんとやってんのか』と」。森喜朗は女性差別発言で組織委員会会長を辞任しましたが、その後釜には自分のことをお父さんと慕う橋本聖子を委員長に就けています。国家主義とマネーファーストの象徴でもあるこの二人のパターナリズムもまた、TOKYO2020のレガシーでしょう。パターナリズムは強権的な代行主義という意味で、巨大広告代理店の電通などはまさにその典型だといえますが、男性優位の資本主義のなかでは必然的にセクシズムの要素も色濃く反映されます。

そこに最初の日本人IOC委員になった加納治五郎の銅像がありますが、その加納治五郎の名前を冠した加納治五郎財団の代表理事を森喜朗が務め、招致にあたっては加納治五郎財団が裏金工作のトンネル資金としてつかえると当時の官房長官であった菅義偉(よしひで)から話を持ち掛けられたというエピソードが週刊誌でも報じられているように、裏金工作は自民党・官邸の常識だったわけです。加納治五郎財団は2020年暮れに活動を終了し、雲散(うんさん)霧消し、後継団体の「日本スポーツ政策推進機構」の代表理事、河野一郎を中心に森の功績をたたえる胸像計画が進められています。

その胸像、そして、まさにあの新国立競技場こそが、セクシズムのパターナリズムのうえに築かれた日本的資本主義の座礁資産だと言えるでしょう。そしてこの場所をふくめ、これらのTOKYO2020の座礁資産の影には、地域住民や市民活動などがどんどんと追いやられ排除されていった歴史があります。オリンピックの歴史を終わらせ、わたしたちの歴史を復活させる地道な努力こそ、社会運動のレガシーにしなければなりません。

大会経費に話を戻しますと、9月に開かれた東京都議会のオリパラ特別委員会で1兆4,238億円の最終報告書が報告されました。

コロナ感染を受けて延期となった2020年12月のバージョン5の予算では1兆6640億円に跳ね上がりましたが、今年の6月の最終報告で1兆4,238億円となったとして、「バージョン5よりも2202億円も節減されました」と報告されています。

しかしそもそも比較するなら2013年1月の立候補ファイルの7340億円から倍増した原因を究明するのが筋ですし、立候補前の招致段階では、既存施設を利用するとして、さらに半分以下の3010億円のみたてでした。それが何と5倍近くもの1兆4238億円にまで膨れ上がったのです。どんな投資詐欺ですか。今後ともこの座礁資産を引き継いだ東京都と議会に情報公開と再検証を求めていかなければならないと思っています。

この「投資の回収」についてですが、イオンという民間企業でスポーツ事業を展開し、2018年からIOC委員と東京オリパラ組織委員を務めてきたてきた渡辺守成というひとは、コロナ禍の2020年11月にこう述べています。

「五輪はやるべきだ。開催しなければ日本の経済がガタガタになるし、世界経済にも響く。そうなれば本当にスポーツどころじゃない世界になってしまう。五輪誘致が決まった13年9月から株価は1万円以上も上がった。延期により多少は追加費用がかかるかもしれないが、投資は回収すべきだ」。

渡辺が五輪招致で株価はあがったと言ってましたが、それはアンダーコントロールによる五輪招致とアベノミクスというふたつの詐欺商法によるものではないでしょうか。それで儲けるのは詐欺師と大企業と一部の政治家だけ。庶民はそのツケを今後も支払わされることになるでしょう。

渡辺氏は、2018年の時点で、東京五輪の投資は20年かけて回収できることを証明したい、と述べていますが、今回の五輪開催強行によって、渡辺氏の目論見が一部実現してしまったケースがあります。

それは、選手村になった都有地を破格の値段で民間デベロッパーに売り渡したことです。選手村に隣接する臨海副都心は、都の費用で恒久施設の建設や既存施設の改修がおこなわれ、オリパラ競技が開催されましたが、ここは20年以上前、バブル崩壊後の1996年に開催を予定していた世界都市博の開催予定地でした。しかし95年に誕生した青島幸雄都知事が中止を決断。こうして臨海副都心の多くは座礁資産となってしまったわけですが、今回の東京五輪を利用して、デベロッパーらはあさましく投資回収に奔走したわけです。

加納治五郎財団は嘘と賄賂にまみれた五輪招致の裏金工作のトンネル会社でしたが、東京五輪は日本資本主義株式会社の裏金工作の巨大なトンネルシステムでした。これこそがTOKYO2020のレガシーと言えるでしょう。

そちらには近代五輪の創設者クーベルタンの銅像があります。クーベルタンは帝国主義者であり女性差別者でもありましたが、1896年の第1回大会直前に、スポーツのもつ一面をこう表現しています。「卑しい情熱」「利欲の刺激」「堕落せる行動」「野蛮」「戦争」。まさにTOKYO2020を予言したかのようです。

腐りきった近代オリンピックを終わらせなければなりません。そしてそれが寄生してきた腐りきった祝賀資本主義システムもまた終わらせなければ、スポーツをはじめ、人々が関わるあらゆる点において、腐りきった悲劇が繰り返されるだけだからです。このような長期的な展望をもちながら、さまざまな立場からTOKYO2020を批判、検証し、反対する札幌、長野、そして世界の人々と活動を継続していきましょう。