小池都知事の五輪予算適正化がなぜ失敗に終わったのか

小池都知事の五輪予算適正化がなぜ失敗に終わったのか
渥美昌純(東京にオリンピックはいらないネット)

小池都知事は知事選の中で「五輪関連予算運営の適正化」を公約に掲げていた。3つの常設施設で400億円削減したことを実績として都議選に臨んでいるが、都外仮設施設で各種報道によれば概算500億の出費であり現時点で差し引きマイナス100億の出費になる。従って「五輪関連予算運営の適正化」に失敗したことは明らかである。
東京五輪は2020年まで続き、五輪関連予算はこれからも支出されつづけるであろう。小池都知事の五輪予算適正化がなぜ失敗に終わったのかを分析する。

その手法として、小池都政が力をいてきた豊洲新市場問題と比較する。オリンピック関連予算については都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームで検討がされ、豊洲新市場問題は「市場問題プロジェクトチーム」をつくって検討がされた。いままであった東京都の各局ではなく新規に設置された組織で検討したという点で似ていると思われているようだが、内実は異なっている。

「市場問題プロジェクトチーム」は「市場問題プロジェクトチーム設置要綱」をつくり、そのための専門家を集めている。情報公開で入手した『市場問題プロジェクトチーム設置要綱の制定について』によれば、起案は2016年9月14日。施行と決定は9月16日である。小池都知事の知事就任は8月2日。小池都知事が代表をつとめる政治団体都民ファーストの会の結成が9月20日であることから比較しても、取り組みが早い。そのことからも豊洲新市場問題に取り組もうという小池都知事の姿勢がうかがえる。
東京都の文書には珍しい校正記号と訂正印だらけの「市場問題プロジェクトチーム設置要綱(案)」からも都庁職員にも寝耳に水であった様子がうかがえよう。

市場問題プロジェクトチームは3条で、地方自治法174条に規定する専門委員をもって構成するとされ、当時8人の委員が選ばれた。メンバーは小島俊郎氏、井上千弘氏、竹内昌義氏、時松孝次氏、森山高至氏、菊森淳文氏、佐藤尚実氏、森高英夫氏であり、土壌汚染や液状化、建築などの専門家をそろえている。

これに対し、都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームはどのような形か。
都政改革本部は2016年9月1日施行の「都政改革本部設置要綱」に基づいて設置されたものであり、都知事が本部長をつとめることになっている。3条4項に「本部長は、必要があると認めるときは、専門的な課題を検討するためのプロジェクトチームを設置することができる」という規定に基づいて設置されたものである。

そもそも都政改革本部の本部長である東京都知事はオリンピック開催都市の首長である。その時点でオリンピック・パラリンピックの調査についてはゼロベースではなく、オリンピックが成功するという枠内での調査という制約がかかることになる。その上、本部長である東京都知事が必要とあると認めるとき、言い換えれば必要がないと判断すればいつでも廃止できるという形であり市場問題プロジェクトチームほどの独立性はない。

発足当時の都政改革本部の特別顧問は10人、特別参与2人、特別調査員は2名であるが、行財政改革や経営コンサルタント、弁護士などが多く「市場問題プロジェクトチーム」のように、スポーツの専門家はいない。となるとスポーツ専門の特別調査員の役割が重要になろう。

そこで『特別顧問及び特別調査員の任命について』を確認する。起案は9月12日で決定は9月13日である。このときに特別調査員として選ばれたのは横田真人氏である。横田氏は日本陸連アスリート委員会役員であり富士通に勤務している。この人を「特別顧問又は特別参与が行う職務を補佐すること」という職務内容で非常勤職員として時給5100円で雇った。

日本陸連アスリート委員会役員であるから「高度の専門的知識を有する者」には該当するが、オリンピック競技は陸上だけではない。また競技者と五輪関連予算運営の見直しによる予算削減は利益相反行為に該当する可能性もある。施設見直しのためには建築の専門家も必要と思われるが、スポーツ専門の特別調査員が1人で大丈夫なのだろうか。

実際に横田氏がどのような役割を担ってきたかを確認する。横田氏からどのような報告がされ、それが都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームの報告書にどのように反映されたのか。強制調査権限のない筆者の力では確認することはできない。というわけで横田真人調査員の報酬から仕事の中身を推測することとした。それが「横田特別調査員」という資料である。情報公開請求で請求して驚いた。

9月は35700円。11月は10200円の報酬しか受けていない。横田氏の時給は5100円であるから9月は7時間、11月は2時間、合計で9時間しか勤務していないことになる。都政改革本部の座席表をみると12月22日の第5回都政改革本部会議に特別調査員として横田氏の席があることから、上記報酬は実質調査が行われた対価と考えることができる。
都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームは2016年12月22日をもって終了という小池都知事の発言を受けて終了したことになっている。従って12月22日までは活動していたはずである。にもかかわらず10月と12月の活動実績はゼロである。

そして、都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームは9月と11月に大きな報告をしているが、その報告に横田特別調査員がどの程度関わったのだろうか。

9月29日に組織委員会が負担する仮設施設の費用を『調査報告書(Ver0.9※)』が公表にされた。横田氏の就任は9月13日だから16日間しかない。いつ出勤し、どの程度関わったのか、先ほどの資料から判断することはできないが、勤務時間が7時間しかないので中心的に働いたとは想像しにくい。

11月1日に都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム名で海の森水上競技場、オリンピックアクアテックスセンター、有明アリーナの3施設見直しを中身とした「新規恒久施設」としてが公表されている。10月の報酬はゼロで11月の勤務時間は2時間しかないのでどの程度関わっているか不明である。

11月28日の都政改革本部でもオリンピックが議題にあがっているが、「東京2020大会準備の加速化に向けて」はオリンピック・パラリンピック準備局名で出されている。もう一つの資料「総費用の抑制に向けて」は都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム名ではなく、なぜか特別顧問上山信一名で出されているから、作成に関与していない疑いすら出てくる。

9月1日の第1回都政改革本部の席上で小池都知事は以下のように発言した。
(引用開始)オリンピック・パラリンピック予算、準備体制、工程表、その妥当性、これについては第三者の目もお借りして検証していきたいと考えています。また、これもing形ですが、東京都の負担、国と組織委員会、さらには各地方にメニューが移ってきているわけで、その各自治体との関係は一体どうなるのか、これも明確にしていきたいと思っております。そのためにも各ステークホールダーの連携、東京都の予算・運営体制を明らかにしていく。そして、そのことを都民の皆さんにお示ししていくという作業になろうかと思います。(引用終了)

本当にここまで踏み込んで改善する気があるなら陸上競技に携わるスポーツ関係者を1人だけ特別調査員にし、特別顧問や特別参与は他のテーマと兼任して調査するという形に無理があったと思われる。こうして資料をみていくと「五輪関連予算運営の見直し」をする気が小池都知事に本当にあったのか。極めて疑問と言わざるを得ない。

先に述べたように都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームは2016年12月22日をもってその活動を終了した。
2020年東京オリンピックはこれから準備が本格化し、ますます問題点が顕在化するのに。今後はオリンピックを成功させるために東京都は我慢しろという方向に向かうのではないか。(2017年6月)